北の縄文講座

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「縄文」を知的観光資源に

大島直行・伊達市噴火湾文化研究所長

縄文文化が「ブーム」と呼ばれるほどに騒がれて久しい。火付け役はあの青森県の三内丸山遺跡だった。
新たな発見が連日マスコミに取りあげられ、「教科書を書き換える」の文字が幾度となく新聞紙面を飾った。これをきっかけに縄文への関心が全国的に高まり、気が付けば縄文ブームになっていた。

それから18年。三内丸山遺跡は国の特別史跡となり、文化庁が世界文化遺産の国内暫定リストに載せた「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」の15カ所の縄文遺跡の一つとなった。北海道からは伊達市の北黄金貝塚など4カ所の遺跡も選ばれた。
私は今、北黄金貝塚を拠点に、世界遺産の登録実現と知的観光資源化という高い理念で活動している。それは、縄文文化の価値が高い精神性にあることに気付いたことで生まれた発想である。
縄文人が一万年もの間、狩猟採集社会を継続したのは、自然を開拓する技術がなかったからではない。あえて開拓しないという強い意志があったからに違いないと。
さらに、北海道の縄文文化が本州に比べて重要な点は、その高い精神性が続縄文文化、アイヌ文化へと受け継がれたことにある。北海道に弥生文化はない。アイヌ民族の先住性は、人類学的だけでなく考古学的にも証明できるゆえんである。
こうしたメッセージを伝えるため、北黄金貝塚情報センターでは毎月末、「ロビー講座」を開いてきた。01年のオープン以来、70回近くを数えた。徹底して縄文文化の本質にこだわり、情報の質の高さに腐心している。小中学生の体験学習は年間1万人を超える。これも縄文文化の本質にこだわったゆえの数字だ。
史跡公園としての整備も続けている。この間の取り組みで見えてきたのは、安易な復元に頼ったテーマパーク化を避け、縄文文化の本質を伝える工夫に徹底した判断の正しさだ。史跡は、ややもすると観光資源化を焦るばかりに、その本質を忘れた陳腐なテーマパークになりがちになる。物珍しさで人は一時集まるが、すぐ飽きられる。
かつて「観光王国」の名を欲しいままにした北海道にも、陰りが見えてきた。雄大な自然とおいしい食べ物だけでは人は来なくなった。時代の流れは、「観る」から「学ぶ」観光へと変わったからだ。
高い精神性に包まれた縄文文化とそれを引き継いだアイヌ文化は,まさに北海道の隠れた魅力だ。知的観光資源としての潜在能力は計り知れない。情報発信力にさらに磨きをかけ、新たな縄文ブームを興したいものだ。

【経歴】
おおしま・なおゆき 1950年、北海道標茶町出身。札幌医科大助手を経て95年に伊達市教委入り。05年から現職。日本考古学協会理事。

【メモ】
■北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群
三内丸山遺跡(青森県)や大湯環状列石(秋田県)など、北海道4カ所▽青森県8カ所▽秋田県2カ所▽岩手県1カ所ーーの15カ所の縄文遺跡で構成。世界文化遺産候補として、ユネスコ(国連教育文化機関)世界遺産センターの暫定一覧表に09年1月、記載された。約1万年続いた縄文文化は温暖湿潤な気候の下で、人間が自然と共生しながら築き上げた。ユーラシア大陸の農耕・牧畜を中心とした文化に比べ、狩猟・採集・漁労を中心とした文化は世界的にも例がない。4道県と12市町村の推進本部が昨年設置され、登録を目指している。

(2010年5月4日毎日新聞「地方発」に掲載されたものです。)

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