北の縄文講座

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縄文へのいざない(10)

遺跡の文化的価値*「自然との共生」を体現

「えっ、縄文遺跡が世界遺産に?」「なぜ?」「それほど価値があるの?」。新聞記事やテレビ報道を見た多くの人たちは、率直にそう思ったに違いない。昨年末、北海道・北東北の縄文遺跡群が世界遺産の国内候補に推薦された時のことである。

*世界遺産に推薦

確かに縄文文化は、この十年ほどの間に教科書を書き換えるような発見が相次ぎ、興味深い話題を国民に提供してきた。しかし、だからと言ってこの文化に世界遺産としての価値があるなどとは誰も考えなかったはずだ。
そんな思いもあって、この連載では、縄文文化のどこに価値があるのかを探ってみた。
結局明らかになったのは、一万年もの長きにわたり、自然との共生という独特の世界観を持ち続けた点に、この文化の大きな特質があるということだった。そして、こうした縄文哲学とでも呼ぶべき「高い精神性」こそが、世界遺産として求められる普遍的な価値なのだと言うことも。
さらには、こうした縄文の世界観が、地球規模で直面する自然破壊や環境汚染の抑止力となりうる、まさに現代的な意義をも備えた叡智(えいち)であることも見逃すことができない。
連載を終えるにあたり、改めて北海道から推薦された四つの遺跡について、その精神文化的な特質を整理しておきたい。
まず北黄金貝塚(伊達市)は、道具を供養した水場遺構と多数の人骨の発見された貝塚に特徴がある。水場遺構からは、発掘した二百平方メートルの範囲だけでも千点以上の石の調理道具が見つかった。どれも壊れているが、決して捨てられたのではなく、供養し「あの世」に送り返す厳粛な物送り儀式の存在を読み取るべきだ。
入江・高砂遺跡(洞爺湖町)は、三メートル以上にも積み重ねられた貝塚のある入江遺跡と、縄文末期のお墓が特徴的な高砂遺跡からなる広大な面積の遺跡である。
入江遺跡の厚い貝層からは、前期から後期に至る二十数体の埋葬人骨が見つかった。貝塚を「物送り場」とする考えが実に数千年もの間ブレなかったことを意味する。この一つ場所へのこだわりは、彼らの強い精神性を表して余りある。

*独特の精神世界

鷲ノ木遺跡(渡島管内森町)のストーンサークルを評し、考古学者の小林達雄はこう言った。「この遺跡は縄文人の心、精神世界の表現そのものなのだ」と。高速道路の建設で保存が危ぶまれたとき、こうも言った。「私たちは今、試されているのだ。この遺跡は行き詰まった現代の対極を示す人類の遺産なのだ」と。これ以上の説明が思い浮かばない。けだし名言である。
大船遺跡(函館市)の竪穴住居の深さには度肝を抜かれた。最大のものは、なんと人の背丈を超える二・四メートル。国内最大の深さだ。これにも何か意味があるに違いない。
おそらく、二階建などといった合理的な理由ではないはずだ。地中深くに彼らの魂を呼び覚ます何かがあったのかもしれない。やはり世界観の問題だ。竪穴の深さは縄文世界の深さそのものと言えよう。
縄文は実に興味深く知的である。これが人類共通の宝として世界遺産になる日がそう遠くないことを願うばかりだ。


国内暫定リスト入りした道内の4遺跡。
大船遺跡(函館市)の国内最大の深さの竪穴住居。

大船遺跡(函館市)の国内最大の深さの竪穴住居。

北黄金貝塚(伊達市)の水場遺構。

北黄金貝塚(伊達市)の水場遺構。

高砂遺跡(洞爺湖町)の3000年前のお墓。

高砂遺跡(洞爺湖町)の3000年前のお墓。

鷲ノ木遺跡(渡島管内森町)のストーン・サークル。

鷲ノ木遺跡(渡島管内森町)のストーン・サークル。

(写真:伊達市、洞爺湖町、森町、函館市各教育委員会提供)

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