大島直行・伊達市噴火湾文化研究所長
シャーマンの役割*人間と自然の関係調整
シャーマンという呼び名は、考古学用語として使われることはほとんどない。しかし、その割には、翡翠(ひすい)のペンダントや南海産の貝の腕輪など、儀式の道具を一体誰が使ったのかと言った時、必ずと言って良いほど話題にのぼる。
そもそもシャーマンというのは、シベリアや中央アジアの遊牧民やアメリカ大陸の先住民、アジアの農耕民らにみられる独特の宗教的な職能者だ。自らを恍惚(こうこつ)、つまりトランスという、われを忘れた状態に導き、神や精霊や死者の霊と直接に交信して、その力を借りて予言や病気の治療を行うのだという。
日本では、巫女(みこ)や巫者(ふしゃ)と呼ぶが、ただし神社のアルバイトの巫女さんはいただけない。下北恐山の「いたこ」や関東の「市古(いちこ)」、奄美の「ゆた」のように霊魂を呼び寄せてその意志を伝え告げる巫女は本物である。シャーマンの多くは女性だが男もいる。日本のシャーマンの多くは女性だ。
*占う力と呪う力
もうひとつ、日本で忘れてならないのはアイヌ民族のシャーマンである。言語学者の金田一京助博士や知里真志保博士が大いに研究した。彼らによれば、シャーマンは男をトゥスクル、女をトスメノコと呼び、その能力(巫術=トゥス)は、大きく呪(のろ)いと占いに分けられると言う。ただし呪いは人に言うことがタブーとされ誰も教えてくれない。だからその内容は謎だ。
占いは、例えば洪水や津波、疫病、日蝕(しょく)や月蝕、地震など思いがけない災難が起こった時に、シャーマンに頼んで「神がかり」をしてもらい、神が乗り移ったシャーマンの口を通して神の意志を伺い、対策を講じたらしい。
このようにシャーマンというのは、人間と社会、あるいは人間と自然との関係を調整する上で、とても重要な役割を持っていたことがわかる。そこで、縄文シャーマンを考えてみたい。
実は私がシャーマンをイメージするとき、必ず思い浮かべるのが、宮崎アニメの最高傑作『もののけ姫』だ。あの物語の背景に縄文と弥生の世界観の違いが据えられていることは良く知られている。
そうした目で見る時、縄文シャーマンの存在にも気づくはずだ。
そう、あのエミシの隠れ里の老巫女「ヒイさま」だ。そして、エミシの末裔(まつえい)アシタカの行く末を占う彼女の占いグッズに注目してほしい。何と、緑に輝く翡翠の大珠(たいしゅ=大玉)があるではないか。
*翡翠はブランド
縄文時代の最高の稀少(きしょう)財といえば、それは何と言っても翡翠である。翡翠は、何せ新潟県の糸魚川にしか産さない縄文時代きってのブランド品なのである。その稀少性ゆえに呪う力は抜群だ。つまりシャーマンといえども、この翡翠の玉を持っていなければただの縄文老婆なのである。
案の定、北海道から沖縄まで、日本列島のすみずみにまで翡翠の玉は行き届いていた。
日本中の縄文ムラが、血眼になってわがムラのシャーマンのために翡翠を手に入れようと奔走する姿が目に浮かぶ。







