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縄文人はどこへ行ったか?

投稿者:(財)北海道埋蔵文化財センター 常務理事 畑 宏明

1ヶ月前になりますが、今年の連続講座は9月11日の松村博文先生(札幌医科大学)のお話で無事に3回の予定を終了しました。春の大震災の影響もあり、今年の開催の行方はまったく予断を許さない状況でしたが、さまざまな困難を乗り越えて無事に終えることができました。まずはこのことを、講座にお出ましいただいた方々や事務局の皆さんとともに喜びたいと思います。
今回の松村先生の講演は、昨年につづき東南アジアを舞台とする壮大なスケールのお話でした。それは副題に「アジアにおける農耕民の大移動」とあるように、「大移動」がテーマです。いつもながら松村先生のお話には、ワクワクさせられました。
結論を先にいうと、新石器時代後半~初期金属器時代すなわち3,800~2,000年前に中国南部から農耕のセットを携えて大移動した人びとがオーストロアジア語族やオーストロネシア語族になったのではないかというものです。3000年前の日本列島への稲作や弥生人の渡来もこれと関連しそうであるが、日本列島へは北方アジア人的特徴をもつ集団の移動を伴ったとのことである。

スライド(図1)によれば、中国南部から南方へはスムーズに移動したようです。しかし、日本列島への移動には北方アジア人が介在するからくりがあったようですが、その実体はまだよくわからないそうです。そして、南方への移住と深く関係する遺物として突起を持つ耳飾りの存在についてちらりと言及されました。その時私は、もしかしたらこのことと関係するかもしれない不思議な資料を思い出しました。それは15年前に千歳市のキウス7遺跡で出土した「異形石器」(図2)です。
この石器は、高速道路の建設に伴う発掘調査で出土しました。赤色のスジ模様のある黒曜石製で、おそらく白滝産の石だろうと思われます。丁寧な押圧剥離によりC字形に仕上げられており、外側に3か所の突起があります。そのうちの1か所は壊れずに原形を保っていますが、先端が尖る2段つくりになっています。反対側の突起は壊れていますが、多分同じような形をしていたと思われます。そして中央の1か所は腕時計の竜頭が伸びたような形をしています。もしかしたら、同じような形を作ろうとしたが、上手くいかなかったのかもしれません。この石器の周辺からは縄文時代後期の土器が出土しているので、石器は3,500年くらい前の縄文時代後期中葉のものとみられ、同時代に特有の三日月形石器が特殊化したようなものと考えられています。
ここに(図3)、フィリピンとヴェトナムの突起のある耳飾りを示しました。これらは2,500~2,000年くらい前の石器時代の終末期から鉄器時代の初期にかけてのもので、主に台湾製のネフライト(碧玉)で作られているそうです。これらは、現地でLingling-Oタイプの耳飾りと呼ばれており、動物の頭を象ったペンダント状の耳飾りとともに発見されるそうです。
これらの耳飾りとキウス7遺跡の出土品は、材質や製作技法はまるで違いますが、誰の目にも形はよく似ていると思われるはずです。時代も、キウス7の方が少し古いようですが、東南アジアのものもその伝統は古くさかのぼる可能性がありそうですから、両者の関係について少しは注意を払っても良さそうに思います。有珠10遺跡で出土したイモガイやオオツタノハなどの南海産の貝製装身具の例もあるので、将来両者の関係が議論されることもあるかもしれません。しかし、今のところ東南アジアと北海道の間には類例はまったくと言ってよいほど見られず、他人のそら似か親類関係にあるのか、資料の欠落は如何ともしがたいのが現実です。

図1 東南アジアにおける台湾産ネフライト製工芸品の分布

図1 東南アジアにおける台湾産ネフライト製工芸品の分布(黄緑色のエリア)    Hsiao-Chun Hung et al. “Ancient jade map 3,000 years of prehistoric exchange in Southeast Asia” PNAS Vol.104 no.50 2007.12.11


図2 キウス7遺跡の異形石器(縦3.3cm, 横4.5cm, 厚3.5mm)
図2 キウス7遺跡の異形石器(縦3.3cm, 横4.5cm, 厚3.5mm)
「千歳市キウス7遺跡(4)」 北埋調報117 (財)北海道埋蔵文化財センター編


図3 フィリピン及びヴェトナムの突起のある耳飾り”       a. b. c.共に「東亜玉器」Vol.Ⅱ Tang Chung 編 香港中文大学 所収

図3 フィリピン及びヴェトナムの突起のある耳飾り(写真の品:縦2.8cm, 横2.4cm, 厚1.0cm)a. b. Eusebio Z. Dizon “Earring in Philippine Prehistory”  c. Ha Van Tan “Jade Split Earring with Projections, in Vietnam” a. b. c.共に「東亜玉器」Vol.Ⅱ Tang Chung 編 香港中文大学 所収

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